死にたい老人(木谷恭介)

もう充分に生きた。あとは静かに死にたい。

木谷恭介(こたにきょうすけ)日本の推理作家。生年月日は1927年11月1日、亡くなったのは2012年12月9日性別は男性。本名は西村俊一(にしむらしゅんいち)。大阪府生まれ、兵庫県出身。 この著書の主人公は、木谷さん自身です。

この著書の内容は、「死にたい老人」なので当然ながら「死」に関する事柄です。木谷さんはこの本を書いた当時83歳で、自分でも言ってますが、「真剣に充分生きた」「一人息子に介護で迷惑を掛けたくない」という思いがある為「断食安楽死」で死のうと計画し実行します。そして何よりこの著書の中で繰り返し出て来る、司馬遼太郎が言った「人間は寿命に従順であるべき」という考えが根底にあるのだと思います。

ちなみに「安楽死」と言うと苦痛なく眠るように死ぬイメージがあると思いますが、そうではありません。医療的に言うと「もう治らないのが分かっているのに、命を延ばす為だけに治療をする」のが延命治療です。そして、それを「やらない」ってのが日本でいう安楽死らしいです。だから、言い方悪いですが、(くだ)に繋がれて延命されてる方がいっぱい居ますよね?、まあこれは日本では法律で安楽死が認められてないからですね。

断食安楽死の記録

木谷さんが断食に入る前に、参考になる資料がないか探したみたいですが、断食死・飢死に関して参考になるものが無かったようなんです。まあ、これらの事は記録を取るような事ではないですからね。当然と言えば当然ですね。

では、ここから断食に入る前・断食期間中の記録について記載していきます。どういう人がこれを読んでいるか分からないですが、飢死に関して参考になる読み物になると思います。ちなみにこれは83歳の時に行った記録です。

  • 断食5日前 体重:52kg 食事:白粥(しらがゆ)(朝・夕方)

    食事が急に少なくなったからか正午ごろに「猛烈に腹がすく」。当日にして既にコレです。

  • 断食4日前 体重:52kg 食事:白粥(しらがゆ)(朝・夕方)

    特に変わりなし。やはり正午ごろは腹がすくらしい。

  • 断食3日前 体重:51kg 食事:白粥(しらがゆ)(朝・夕方)

    やはり腹は減るが、死に繋がる深刻さは感じられない。

  • 断食2日前 体重:51kg 食事:白粥(しらがゆ)(朝・夕方)

    昨日までと空腹度合いが変わってきて「食べたい」という欲求が出てきた。

  • 断食前日 体重:51kg 食事:白粥(しらがゆ)(朝・夕方)

    体の平行感覚が(おとろ)え、少しフラフラする。しかし、体に異変は感じない。

いよいよ断食突入

まずは今回の断食のルールを記載しておくと、①食事はもちろん、菓子、果物などエネルギーのあるものは一切口にしない。②水(真水)制限なく飲みたいだけ飲む。③医者から貰った鬱血性心不全(うっけつせいしんふぜん)の薬は飲む。

  • 断食1日目 体重:50kg 食事:なし

    腹はそこまで減ってないが、食べたい誘惑に駆られる。

  • 断食2日目 体重:50kg 食事:なし

    特に変化なし。

  • 断食3日目 体重:51kg 食事:なし

    倦怠感(けんたいかん)が強い。

  • 断食4日目 体重:48kg 食事:なし

    急に体重が落ちた。目についたアメが凄く気になる。飢餓状態が激しくなると本能的に(むさぼ)る様な事がおきるのだろうか?

  • 断食5日目 体重:48kg 食事:なし

    体力の衰えが想像以上に激しい。

  • 断食6日目 体重:48kg 食事:なし

    空腹に慣れたのか2〜3日前の様な苦痛は感じなくなった。テレビで食べ物が出てくると、食べたい欲求が出てくる。つくづく食べることは「本能」なんだと思った。

  • 断食7日目 体重:48kg 食事:アメ一粒

    左の肋骨のすぐ下に疼痛(とうつう)があったので、誘惑に負けてのどアメを一粒舐めた。

  • 断食8日目 体重:48kg 食事:なし

    特に変化なし。

  • 断食9日目 体重:48kg 食事:なし

    体の中の脂肪やタンパク質を消費し始めたのか、2〜3日前とは違いひもじいというよりは、体がエネルギーを欲している感じがする。

  • 断食10日目 体重:47kg 食事:なし

    体力の衰えが激しい。2〜3日前から軽い頭痛がする。医学書では「死が近づくと、激しい頭痛に見舞われる」とある。その前症状なのか?

  • 断食11日目 体重:47kg 食事:なし

    「生と死」の境をつくる峠があるとしたら、今日あたり6合目くらいまで来た感じ。

  • 断食12日目 体重:47kg 食事:なし

    昨日に比べると今日は嘘のように快調。

  • 断食13日目 体重:47kg 食事:なし

    今日は倦怠感が強い。テレビに映ってる食べ物を見ると辛い。。。

  • 断食14日目 体重:47kg 食事:なし

    空腹の時期は通過し、体力の衰えだけが進行中。脳の機能が衰えたのか継続的に読む事が出来ない。

  • 断食15日目 体重:46kg 食事:なし

    台所が遠く感じる。このパソコンで記録をつけるのもしんどい。。。

  • 断食16日目 体重:46kg 食事:なし

    友人から電話があり、参考意見をくれた。45kgを切ると足腰がきかなくなるとのこと。そういえば昨日・今日脱力感が酷い。

  • 断食17日目 体重:46kg 食事:ホットケーキ

    コンビニにタクシーで雑誌を買いに行った際にホットケーキを買ってしまった。温めて食べたがやっぱり美味しい!

  • 断食18日目 体重:46kg 食事:なし

    特に変化なし。

  • 断食19日目 体重:46kg 食事:なし

    一昨日、ホットケーキを食べたせいか、食欲がぶり返し、「食べたい」切なさに苦しめられている。
    贅沢は言わない、食パンの白い部分をむさぼるように食べたい!

  • 断食20日目 体重:45kg 食事:なし

    遂に45kg台に突入したが、昨日と変わりは感じない。

  • 断食21日目 体重:46kg 食事:なし

    特に変化なし。

  • 断食22日目 体重:45kg 食事:コッペパン半分

    昨日とは体の安定感が違う。何かに支えられないと転がりそうになる。
    週刊誌をタクシーに乗って買いに行った時にコッペパンを買ってしまった。
    驚いたのはパクついたものの、半分食べるのが精一杯だった。

  • 断食23日目 体重:45kg 食事:なし

    薬を飲むと胃が痛い。かかりつけの医院へ行く。
    空きっ腹で薬を飲んでいたからか、胃潰瘍(いかいよう)になりかけているかも、、、との事。

  • 断食24日目 体重:45kg 食事:なし

    医者から勧められたケアハウスの事や、気遣ってくれる友人が居ることもあり、電話で友人に「断食」をギブアップすることを伝えた。
    しかし、息子と断食の事で喧嘩した事を機に「死」に対して敬虔(けいけん)でないといけないと思い直す。

  • 断食25日目 体重:44.5kg 食事:なし

    特に変化なし。

  • 断食26日目 体重:44.5kg 食事:なし

    特に変化なし。

  • 断食27日目 体重:44.5kg 食事:なし

    このところやたら口の中かが渇く。 水を飲んでも渇きはとまらない。
    断食を始めた頃の空腹感も口寂しさも「今は」ない。
    からだの力は抜けていくが、それが空腹とは繋がらない。
    このまま少しづつ力が抜けて行って、最後の日を迎えるとしたら、悪くない「死」だと思う。

  • 断食28日目 体重:44.5kg 食事:なし

    特に変化なし。

  • 断食29日目 体重:44.5kg 食事:なし

    口の中が異常に渇く。のどではなく口の中が渇き、水を飲んでも渇きはとまらない。
    頭痛も続いている。

  • 断食30日目 体重:44.5kg 食事:なし

    特に変化なし。

  • 断食31日目 体重:44.5kg 食事:なし

    空きっ腹に薬を飲んでる影響か、胃が痛む。あと、我慢出来ない頭痛ではないが、死期が近づくとそういう症状が起き始めると医学書に書かれていたのを思い浮かべる。

  • 断食32日目 体重:43kg 食事:なし

    胃の痛みさえなかったら半分、恍惚(こうこつ)状態。

  • 断食33日目 体重:43kg 食事:なし

    特に変化なし。

  • 断食34日目 体重:43kg 食事:なし

    動くのが辛い。辛さが昨日までと全く違う。

  • 断食35日目 体重:44.5kg 食事:なし

    薬の影響からか、胃の痛さが日に日に増す。

  • 断食36日目 体重:44.5kg 食事:なし

    ここまで来ると一歩あるくのも辛い。

  • 断食37日目 体重:43kg 食事:なし

    今月初めから胃が痛み、放って置くと胃に穴が開いて腹膜炎(ふくまくえん)になる恐れがある。
    「死」は覚悟しているが、できれば「餓死」が望ましい。
    そういう訳で放って置くことは出来ず、かかりつけの医院に行く。

  • 断食38日目 体重:43kg 食事:なし

    かかりつけの医院の紹介のケアマネージャーが自宅に来訪。
    断食38日目にして断念。
    いいところまで来たと思うし、体に苦痛は無い。ただ、この辺りがXデーだと思っていたが、あと20日位かかりそうだと思った。

死ぬことの難しさ

餓死を試みる記録を見て如何(いかが)でしょうか?、水を飲んでいるとはいえ意外な位死ねない事にビックリしました。ちなみに水を飲まないと通常4日程で死に至ると言われています。もし、餓死を試みる方が居るならば、水あり・水無しの2つの方法があるという訳ですね。

あと、自殺する事を知っているにも関わらず止めないと、「保護責任者遺棄致死」(ほごせきにんしゃいきちし)になる可能性があるので誰にも悟られずに行う必要があります。

死の最後の山場は24〜48時間らしく、死に至る24時間前あたりが最も苦しいそうです。そして余命数時間になると昏睡状態(こんすいじょうたい)になり、患者本人は極楽浄土の入口に立ったような恍惚(こうこつ)の状態になり、やがて「死」を迎える事になるらしいです。

そしてその後

木谷さんは餓死出来ずに、2012年心不全で亡くなりました。 実は木谷さんは餓死に3回チャレンジしており、今回載せたのは2回目の餓死を試みた最長記録です。結局餓死する事が出来ず、木谷さんが友人から言われた「人間は理性的に自殺する事はできない」と言う言葉がやけに重たく響きますね。

上記の事から自殺する為には狂気的になって短時間で殺らないと思いは成就(じょうじゅ)出来ないよって事なんでしょうね。

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